第 21 回を迎える今回は、より多くの作品を上映します。⿇薬密売、トランスセクシュアリティ、政治など、これまでの LBFF でも扱ってきたさまざまなテーマを取り上げました。動物を主役にした作品や、 ホラー作品にも注⽬です。ぜひ観客の皆さんに、映画館で楽しんでいただければ幸いです。
【「第21回ラテンビート映画祭」のキービジュアルについて】
今年のメインビジュアルは、ピカソが描く牛やミノタウロスの絵にインスパイアされたものです。ミノタウロスはギリシャ神話に登場する半人半牛の怪物ですが、ラテン的な雰囲気も感じられます。今回は闘牛に関するドキュメンタリーも上映するのでぴったりです。カラー・バージョンのビジュアルは、アンディ・ウォーホルのカラフルなマリリン・モンローを想起させます。映画とポップへのささやかなオマージュです。
ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞・脚本賞受賞の『気狂いピエロの決闘』(10)(LBFF11で上映)、ゴヤ賞8部門受賞の『スガラムルディの魔女』(13)(LBFF14で上映)、『ベネシアフレニア』(21)(LBFF21で上映)などで熱い支持を集めてきたアレックス・デ・ラ・イグレシア監督が立ち上げたホラーレーベル「The Fear Collection」からの第3弾となる長編作。女優、脚本家、小説家として活躍するヒミナ・サバドゥが初監督を務めるゴシック・ホラー作品。本国スペインでは11月8日に公開される。
修道女フアナを演じるのは、ビガス・ルナ監督の『マルティナは海』(01)、ペドロ・アルモドバル監督の『トーク・トゥ・ハー』(02)、イザベル・コイシェ監督の『死ぬまでにしたい10のこと』(03)などで脚光を浴びたマドリード出身のレオノール・ワトリング。神父役に『ロスト・アイズ』(11)のパブロ・デルキ。『俺の過ち』(23)のハイメ・オルドニェスらが脇を固める。
顔も見知らぬ父ペドロ・パラモを探して男が辿り着いたのは、暴力と叶わぬ恋が引き起こした怒りによって破滅に追い込まれた町だった。ラテン文学の最高傑作のひとつである1995年初版のフアン・ルルフォの長編小説『ペドロ・パラモ』を原作に、メキシコ出身のロドリゴ・プリエトが初監督。ラテン・アメリカ発祥の現実と非現実とが入り混じる幻想的な語り口"マジックリアリズム"に彩られた、生死が混在するドラマを描く。
本作で初めてメガホンを執ったロドリゴ・ブリエトは、80年代後半から撮影監督として活躍、『ブロークバック・マウンテン』(05)、『バービー』(23)など多数の作品に参加した。『ラスト、コーション』(07)でヴェネチア国際映画祭金オゼッラ賞を受賞、アカデミー撮影賞に4度ノミネートされている。
父親ペドロ・パラモを演じるのは、『マグニフィセント・セブン』(16)、『オリエント急行殺人事件』(17)のマヌエル・ガルシア=フルフォ。『闇に棲むもの』(20)、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(22)のテノッチ・ウエルタが、息子フアン役を務める。
2024年9月のトロント国際映画祭のプラットフォーム部門作品として世界初公開され、9月にメキシコで限定公開。11月6日よりNetflixで世界配信も決まっている。
2022年の第19回ラテンビート映画祭にて『パシフィクション』(22)が上映された、スペイン・カタルーニャ出身の異才監督アルベルト・セラの最新作。ペルー出身のカリスマ、アンドレス・ロカ・レイを中心に、人気闘牛士たちの日々の活動を追ったドキュメンタリーで、先日開催された第72回サン・セバスティアン国際映画祭にて最優秀作品賞を受賞した。
「動物を虐待する時代遅れの野蛮な行為」という批判を受けながらも、力強い獣に対峙する俊敏で華麗な闘牛士たちのパフォーマンスが、今なお熱烈なファンを惹きつける「闘牛」の世界。セラ監督は撮影に3年、編集に2年の歳月を費やし、4つの闘牛場で行われた14の闘牛から選び抜かれたカットによって、闘牛の光と影を映し出す。
セラ監督は、カンヌ国際映画祭で『騎士の名誉』(06)、『鳥の歌』(08)、『リベルテ』(19)高く評価されたほか、『ルイ14世の死』(16)でガウディ賞2部門受賞を果たしている。
鬼才トビー・フーパー監督が1974年に手掛け、ニューヨーク近代美術館(MoMA)にも永久収蔵されたホラー映画の金字塔『悪魔のいけにえ』が後世に与えた多大なる影響を、コメディアンのパットン・オズワルト、映画批評家のアレクサンドラ・ヘラー=ニコラス、作家のスティーヴン・キング、さらに映画監督の三池崇史、カリン・クサマのインタビューや回想を通じて浮かび上がらせたドキュメンタリー。5人の偉大なクリエイターが幼少期や青年期に同作を体験したことによって、いかにして彼らの精神や作家性が形成されたかを描く。第81回ヴェネチア映画祭クラシック部門にて、ドキュメンタリー賞を受賞。
メガホンをとったアレクサンドル・O・フィリップはスイスの映画監督で、「スター・ウォーズ」シリーズのファンダムについて描いた『The People vs. George Lucas』(10)、『サイコ』のシャワーシーンを集中的に研究した『78/52』(17)、リドリー・スコット監督のテーマ性を深く掘り下げた『Memory: The Origins of Alien』(19)ほか、数々のドキュメンタリー作品で知られている。
ペドロ・アルモドバル製作『永遠に僕のもの』(18・第71回カンヌ国際映画祭ある視点部門、クイアパルムノミネート))で知られるアルゼンチンの俊英、ルイス・オルテガ監督の最新作で、第81回ヴェネチア映画祭コンペティション上映作。先ごろ開催された第72回サン・セバスティアン国際映画祭では、オリゾンテス・ラテン映画賞(最優秀イベロアメリカ映画賞)を受賞した。2025年に開催される、第97回アカデミー賞の国際長編映画賞アルゼンチン代表にも決定している。
レモは圧倒的な才能を誇る騎手だが、破滅型の思考と行動は、恋人で同じ騎手でもあるアブリルとの関係も破綻させようとしていた。そのアブリルはレモの子供を妊娠しており、キャリアを続けるか家庭を持つかの悩みの中にいる。レモは、ギャングのボスからの借金を清算しようと、人生で最も重要なレースに挑むが……。
本作はブラックユーモアに満ちたコメディでありながら、ギャング映画の風味やジェンダーの混乱も交え、さらには自我の解放までをテーマに、オルテガ監督の手腕が発揮されている。
コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルが、私設動物園に収容するためにアフリカのカバの捕獲を命じたという事実の顛末を、“カバの視点”から描く実験的な一作。ドキュメンタリー、再現ドラマ(ドキュフィクション)の手法が、多彩な画面サイズともに入り乱れる。第74回ベルリン国際映画祭でコンペティションを争い、銀熊賞(監督賞)に輝いた。
1993年に麻薬王エスコバルがコロンビア警察特殊部隊との銃撃戦で死亡したとき、彼の私設動物園にはライオン、ゾウのほか、4匹のカバが残されていた。動物園は荒れ果てたが、カバは周囲の環境に順応して2007年までに大きな群れに成長。徐々に地元の農民や漁師にとって脅威として認識されるようになる。群れから分かれ、メディアによって名付けられた1頭が「ぺぺ」。ぺぺは当局の指示で2年後に射殺され、「アメリカで殺された唯一のカバ」となった。
ネルソン・カルロ・デ・ロス・サントス・アリアスは、ドミニカ出身で、ブエノスアイレスとエジンバラで映画制作を学んだ監督。2017年の監督・脚本作『COCOTE』は、ロカルノ国際映画祭サインズ・オブ・ライフ部門で最優秀賞を受賞している。
昨年のラテンビート映画祭 IN TIFFで『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』が上映されたペドロ・アルモドバル監督の最新作にして、第81回ヴェネチア国際映画祭にてスペイン映画として初となる金獅子賞を受賞したヒューマン作。ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーア、共にオスカー女優のふたりが、監督初の長編英語作品で主演を務めた。シーグリッド・ヌーネスの小説「What Are You Going Through」を原作に、アルモドバルが脚色も担当。ヴィヴィッドで叙情的な監督の感性によって、「死」というものを見つめる一篇だ。
1980年代にニューヨークの雑誌社で共に働き、親友同士でもあったイングリッドとマーサ。やがてイングリッドは作家として成功し、マーサもまた戦場ジャーナリストとしてキャリアを積み重ねることとなる。長らく音信不通だった彼女たちだが、マーサが子宮頸がんで闘病しているとイングリッドが知ったことから、再び人生が重なり出すが……。
アルモドバルはLBFFとも縁深く、『バッド・エデュケーション』(04)が第1回のオープニング作を務め、『私が、生きる肌』(11)が第8回で、『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13)も第10回で上映されている。