私は30年前、東京藝術大学に留学生として来日しました。大学生だった私は「じぶんで」と「がんばる」をコンセプトに骨の髄まで学びました。日本に来て10年が経った頃、ラテンビート映画祭を開催しました。ゼロから何かを作るには20年もの努力が必要でした。そうして、日本とスペイン(およびポルトガル)、ラテンアメリカとの繋がりを発展させてきました。今年はLBFF20周年を記念して、ピンクとイエローを主役にしたポスターを作成しました。ピンクとイエローは映画祭を象徴するポスターの中で繰り返し使われてきた色です。子猫は私の15歳のルームメイト、ミニちゃん。
第1回LBFFを振り返ってみましょう。オープニングを飾ったのは、ペドロ・アルモドバルの『バッド・エデュケーション』。新人監督たちによる初監督作も上映され、そのひとりはイザベル・コイシェでした。今年、両監督がLBFFに戻ってきます。アルモドバルは男性同士の愛憎を描いた作品で。コイシェは澄みきった険しい山を舞台にした作品で。ロドリゴ・モレノは2006年の初長編作『ボディーガード』に続き、2023年にも法の両側にいるキャラクターを描いています。クリストファー・マーレイは2016年の『盲目のキリスト』に続き、社会的に疎外された人々、今回は植民地化と闘う人々を、原住民の言語で描いています。過去のLBFF作品にも、ケチュア語、グアラニー語、カタルーニャ語、ガリシア語、バスク語の作品があったように。『Totem(原題)』のリラ・アヴィレスのように、LBFFでは女性監督たちが常に存在感を示しており、その数は第1回から増え続けています。タンゴの世界では、20年踊ってもまだまだ、大したことはないと言われます。これまで支えてきてくださった観客と、私たちを迎え入れてくださったTIFFに感謝します。
カンヌ国際映画祭でワールド・プレミア上映され、クィア・パルムと短編賞にノミネートされたペドロ・アルモドバル監督の最新作。『ビフォア・ミッドナイト』(13)、『6才のボクが、大人になるまで』(14)のイーサン・ホークと「ナルコス」(15~17)、「マンダロリアン」(19~23)のペドロ・パスカルという実力派スターの共演で、再会したふたりのガンマンの愛憎が描かれる。
シルバは25年ぶりに友人のジェイク保安官を訪ねるため、馬を走らせて砂漠を横断する。ふたりは再会を喜び合うが、翌朝ジェイクは、シルバがやってきた本当の理由は、友情の思い出をたどるためではないのだろうと告げる……。
アルモドバルは、1998年の『オール・アバウト・マイ・マザー』でアカデミー賞外国語映画賞を、2002年の『トーク・トゥ・ハー』でアカデミー賞脚本賞を受賞したオスカー監督。LBFFでは『バッド・エデュケーション』(04)が第1回のオープニングを飾り、第8回に『私が、生きる肌』(11)が、第10回に『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13)が上映されている。
女優としてのキャリアも積んできた、メキシコ出身の若手監督リラ・アヴィレスの長編第二作。ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品されてエキュメニカル審査員賞を受賞したほか、本年度アカデミー賞国際長編映画賞のメキシコ代表にも選出されている。
7歳の少女ソルは母親とともに祖父の家を訪れ、父のために行われるサプライズ・パーティーの準備を手伝う。病床に伏しているソルの父は、パーティー出席のために介護士の手を借りて支度をしていく。大人、そして子供たち──多くの人々の想いが交錯する中、ソルはやがて、この日が二度と来ないかけがえのない日になることを感じ取っていき……。
2012年生まれのナイーマ・センティーエスは、本作が映画初出演。共演は『バルド、偽りの記録と一握りの真実』(2022年のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作)のモントセラート・マラニョンほか。アヴィレス監督は、2018年の前作『The Chambermaid』に続いて、アカデミー賞国際長編映画賞メキシコ代表選出となった。
2006年の『ボディガード』(第3回LBFF上映作)でベルリン国際映画祭アルフレッド・バウアー賞を受賞し、2011年の『Un mundo misterioso』が同映画祭の金熊賞候補となったアルゼンチンの革新的若手監督、ロドリゴ・モレノの最新作。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で上映され注目を集めたほか、本年度アカデミー賞国際長編映画賞のアルゼンチン代表に選出されている。
ブエノスアイレスの銀行で働いているモラン。存在感の薄い彼は、同僚のロマンと夕食を共にした席で、勤めている銀行から遊んで暮らせるほどの大金を盗んだと告げる。モランは自首するつもりだが、収監されている間に盗んだ金を隠しておいてくれるなら、ロマンと山分けしてもいいと持ちかけるが……。
『ザ スナッチ シィーフ』(18)のダニエル・エリアスと『約束の地』(14)のエステバン・ビリャルディが銀行員のふたりを演じ、モランが出会い、彼の運命を大きく変える女性ノルマをマルガリータ・モルフィノが演じる。
果たして完全犯罪は成立するのか。予測できないストーリーテリングが出色のクライム・コメディ。
『あなたになら言える秘密のこと』(06・作品賞ほかゴヤ賞全4部門受賞)、『マイ・ブックショップ』(18・作品賞ほかゴヤ賞全3部門受賞)などで知られるスペインの代表的監督のひとり、イザベル・コイシェ監督の最新作。原作はスペインのサラ・メサによるベストセラー小説。サンセバスチャン国際映画祭ではコンペティション部門に出品され、Feroz Zinemaldia Awardを獲得。ホヴィク・ケウチケリアンが助演男優賞を受賞した。
フリーランス翻訳者であるナットは、山間の村の一軒家に居を構えるべく引っ越してくるが、家主は気の荒い女性差別主義者だった。今にも壊れそうな“新居”の修理に手を貸すのは、ドイツから移住してきた隣人のアンドレアス。最初は拒みながらも、結局ナットは彼を受け入れ、奇妙な関係が育まれていく。
ナット役は、ドイツの『ヴィクトリア』(15)、アメリカの『ライフ・イットセルフ/未来に続く物語』(18)など、スペイン以外でも活躍するライア・コスタ。『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)のホヴィク・ケウチケリアンがアンドレアス役を演じる。共演のウーゴ・シルバは、アレックス・デ・ラ・イグレシア監督の『グラン・ノーチェ! 最高の大晦日』(15・第12回LBFF上映作)、『スガラムルディの魔女』(13・第11回LBFF上映作)、ペドロ・アルモドバル監督の『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13・第10回LBFF上映作)の出演でもおなじみ。
サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマティック部門出品作。監督と共同脚本を手掛けたチリ出身のクリストファー・マレーは、2016年の『盲目のキリスト』がベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品された俊英監督。同作は第13回LBFFでも上映され、来日を果たしている。
1880年のチリ。父とともに離島で暮らし、農場で働いていた13歳の先住民の少女ロサは、ドイツ人入植者に父親が殺されたことをきっかけに、村の祈祷師グループのリーダー、マテオに助けを求める。“正義”を願う彼女の希望に応え、マテオはドイツ人一家の子どもたちを呪術で犬に変えてしまうが……。
キャリア間もないロサ役のバレンティーナ・ベリス・カイレオの脇を固めるのは、チリ映画界で長らく活躍してきたダニエル・アンティビロ(マテオ役)と『リトル・ジョー』(19)のセバスティアン・フールク(入植者役)。19世紀後半に実際にチリ国が魔術集団に対して行った裁判をモチーフに、現代にも通じる異文化間の分断と緊張が描かれる。
2022年1月──今年で18年目を迎えた「ラテンビート映画祭」では新たな試みとして、日本未配給のスペイン語・ポルトガル語圏の名作を中心に紹介する常設の配信チャンネル「ラテンビート・クラシック『CANOA(カノア)』」をオープンします。
「ラテンビート・クラシック『CANOA』」では、以下のようなプログラムを予定しています。
1940年代から80年代に掛けて製作された、スペイン語・ポルトガル語圏の数々の古典的傑作を配信します。ルイス・ブニュエルやフアン・アントニオ・バルデムと並ぶ、今年生誕100周年を迎えたスペインの巨匠監督ルイス・ガルシア・ベルランガの代表作に加え、スペイン、ポルトガル、1940~50年代の映画黄金時代のメキシコ、アルゼンチン、チリなど、各国の作品を予定しています。
これまでの劇場での上映展開では実現が難しかった「特集上映」をオンラインで実施します。ホラー映画やエロティシズム作品をはじめとする多彩なジャンル特集や、特定の映像作家に絞ったレトロスペクティブ(回顧特集)など、多くの特集プログラムを企画しています。
2004年のラテンビート映画祭のスタート時、日本ではまだそれほど多くはスペイン語・ポルトガル語圏の映画を鑑賞することはできませんでした。しかし、NetflixやAmazon Prime Videoなどのデジタル配信サービスの隆盛によって、現在は多くの作品を手軽に観られるようになりました。“スペイン語・ポルトガル語圏の注目作をいち早く紹介する”という、本映画祭が持つ本来の意味にも変化が及んでいる今、私たちはオンラインでも“新たな映画祭”にチャレンジすることにしました。
劇場で開催する従来のラテンビート映画祭の形に加え、この新しい試みにもどうぞご期待ください!
“CANOA(カノア)”は、“トマト”や“ポテト”、“カカオ”のようなラテンアメリカ・カリブ海地域の先住民の言葉が由来のスペイン語で、いまや世界中に広がっている言葉です。多くの言語で「小さな舟」を指すものとして知られています(カヌー[CANOE]の語源とも言われています)。
私たちはこの“CANOA”に、コロナ禍がもたらした数多の問題を乗り越え、文化を西から東へと幅広く運んでいく媒体としての願いを込めました。
ルイス・ガルシア・ベルランガ(Luis García Berlanga)ほどスペイン社会を正確に描いた映画人はあまりいない。それも、これほど質の高い脚本と映画的技法をもって実現した者となるとなおさらだ。彼の作品を称えることは、前世紀のスペイン文化の全域を称えることであり、スペインと多少なりとも近い他の文化および映画的形式を融合できるスペイン文化の力量を称えることでもある。ベルランガは、スペインの最も優れた文学、演劇、さらには造形芸術に自らの根を張るクリエーターだ。だが同時に、彼が活躍した期間のさまざまな瞬間に、世界の映画界で起きていたあらゆることにしっかりと目を向けた人物でもある。ベルランガは世界を理解していた。それも自分が生まれ育った場所から世界を理解した映画人であった。
50年間に及んだ活動期間中、ベルランガは、その作品が多くの問いを投げかけるものであることから厳しい検閲にかけられたこともあった。だがやがてスペインが民主化に向かうと、変わりゆく時代の旗手となった。1978年から1982年にかけて国立映画図書館の代表を務め、スペイン映画芸術科学アカデミーの創設メンバーでもあった。ベルランガは、優れた演出をする監督であり、作中、役にはまっていない俳優は一人としてなく、全員が常に調和のなかにある。また、彼はカメラ回しの名手でもあった。
監督した長編映画は全17作。「ベルランギアーノ」という形容詞は、「コミカルでシュールな」を意味し、それはペドロ・アルモドバル監督の作品に色濃く見られる要素でもある。
今回配信される作品「Bienvenido, Mister Marshall!」「Plácido」「El verdugo」は、ベルランガの最も有名な3作であり、このたび初めて日本語字幕付きで紹介される。
出典:スペイン国立映画図書館(Filmoteca Española)制作の小冊子より、一部抜粋・編集・加筆・翻訳